
前回の第1回「ブラック校則」ランキングから約一年が過ぎた。「ブラック校則という呼び方は人種問題的に良くない」とのご指摘を頂いたため、名称を「へんな校則」ランキングに変え、今年もお届けしたい。
前回と同様、基礎調査は2名の学生に担って頂いた。私が監修しているものの、全校の校則を読み込むという大変な労を担って頂いたばかりか、他県と他国の中学校に通っていた2人の高校生の新鮮な目で管理的な本市の学校風土を冷静に観察して頂き、多くの気付きをもらった。この場を借りてお二人と派遣団体I-CASに感謝したい。
さて、市立中学校23校のうち、今年度「へんな校則」ランキングの第1位を飾ってしまったのはどこか。さっそく、結果を見て頂こう。
第2回「へんな校則」ランキング2021

第1位に選ばれた残念な学校は北下浦中学校だった。理由は、プライベートに踏み込みすぎであることだ。詳細を確認したい方は、下記をご覧頂きたい。
※スマホの方はコチラ →校則比較表(GoogleDocs) →各校の校則(GoogleDrive)
前回は、制服や髪型について男女別に定める規定を重く見た。それは明らかに人権侵害だからだ。しかし、前回のランキングを基にした教育長への質疑や世論の声の高まりを受けて、今年4月からは全校において男女別の制服や男女別の髪型の規定は基本的に一掃された。これを受け、次に問題となるプライベート領域へ土足で踏み込む校則が今回は焦点となった。
その結果、髪の色、結び方、パーマ有無、眉毛の処理、下着・タイツ・コートの色といった個人の領域に関するものに関する規定が最も多かった北下浦中を最も「へんな校則」と認定した。また、整列移動という軍隊や少年院と見まがうような謎ルールを廃止する学校も多い中、意地をはって維持した点も重視した。
なぜプライベートに踏み込んではいけないのか?
日本国憲法には第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定められている。基本的には、これが軸になる。
時短のためにパーマをかけようが、カッコいいと思って髪を染めようが、私のように眉毛がつながる人が眉間の毛抜きをしようが、自由なはずだ。もちろん、公共の福祉に反してはいけない。しかし、パーマや茶髪が学校において他の生徒や教師に迷惑をかけるだろうか?
これが制汗剤であれば、臭いのキツいものは公共の福祉を害すると見做せるため、香り付きやスプレー式を禁じることには合理性が認められる。しかし、こうした他人に害を及ぼすものでない限り、それは私的領域の話であり、他人である学校が土足で踏み込んでいいものではない。
あるいは、これが私立学校ならば、どんな校則を課そうが基本的に問題ない。そういった校則があることを承知の上で自由意思で選んでその学校に行ったのだから、「嫌なら行くな」という話だ。しかし、公立中学校はそうではない。「嫌なら他の市町村に移住しろ」とは言えず、選択肢はないからだ。
ちなみに私の学生時代には(福島県だが)、頭の傷を隠すために長髪にしたり若白髪を茶色に染めたりする同級生がいた。それに教師も口を出さず、彼らも事前に相談した風でもなかった。横須賀市でもどうせ「理由を言えば許可する」と言うのだろう。しかし、その理由だってプライベートの秘事だ。他人である教師に明かす必要はないはずだ。自己情報開示の選択権は生徒側にあるのだから。
こうしたこともふまえ、髪の色や服装の変化を教師が機敏に捉えて生徒指導に活かすのは良いだろうが、決して口出しすべき事柄ではない。自由権の中には、他人に害を及ぼさない限り「愚行権」も認められている。その権利に基づいて、大人たちも喫煙や飲酒や刺青といった様々な愚行に手を染めていることを忘れるべきではない。
2位以降の学校の「へんな」校則
第2位の神明中も、基本的には北下浦中と同様だ。髪型に左右対称性を求めたり、眉毛処理を禁止したり、放っといてくれと思う。
第3位の鷹取中は、23校中で唯一、性差を定めてしまった。女子限定で「女子の髪の毛をまとめるときは、黒・紺・茶のゴムでまとめてください。」と規定したのは、大きな減点となった。来年こそ、一切の性差別を排してほしい。
第4位の鴨居中は、朝8:25に行うという服装点検が大きな減点となった。服装チェックなど「シャツがズボンから出ちゃっているよ」と気付いたら教えてあげる程度でいい。放っておいてほしいものだ。また、髪をまとめるゴムの結び方についても「結び目が前から見たときに見えない高さにする。」とやたらに細かいことも印象的だった。昨年の第1位からは順位を落としたものの、唯一の2年連続ランクインとなってしまった。
第5位の大矢部中は、私的領域の介入が北下浦中と並んで多かったものの、良い点も多かったので、5位に踏みとどまった。髪の結び方が異様に細かく「髪が肩にかかる場合は、黒・紺・茶のゴムで1つまたは2つで結びます。おだんごのような結び方は禁止です。結び目が下向きになるように結びます。ヘアピンは黒とします。ヘアバンド・カチューシャ・編み込み、その他の装飾品は禁止です。」といった具合だった。過去に心を病んだ校長でもいたのかもしれない。
その他の謎ルール集
幸いにもランクインはしなかったが、他の学校にも「これはどうか?」と思うような謎ルールが散見された。
たとえば池上中は、コートについて色だけでは飽き足らず、長さまで指定していた。これは23校中で唯一の規定だった。
他にも、罪刑法定主義の原則を平気で破る学校もあった。久里浜中は「この他にも守らなければいけないルールがあるが久里浜中学校の生徒として常識的な判断を。」とし、公郷中は「このプリントの項目以外にも、集団生活をおくる上で当然守らなければいけないルールやマナーがあります。それらすべてを記載することはできませんが、公郷中学校の生徒として、常識的な判断力を持って行動してください。」と記述している。守らなければならないことがあるならば、きちんと校則に定めるべきであり、校則に書いていないことで生徒を縛ってはいけない。だいたい、そんなに事細かくルールを定めるのではなく、マナー違反があれば生徒も教師も互いに注意し合えば済む話である。
こうした、具体的ではないルールという観点では、多くの学校に見られる「中学生としての行動」「中学生らしい髪型」といった曖昧な規定が目に付く。何が「中学生らしい」かは文化によって異なる。とりわけ、アメリカやフィリピンから来た生徒が多い横須賀市にとって、文化的な差異には気を遣うべきだ。アメリカから来た生徒が、アメリカでは当たり前の髪染めやパーマをして学校に行ったところ「中学生らしくない」といって指導されることは望ましくない。また、家庭ごとに文化は異なる。日本人であっても、バリカンで模様を入れた髪型を子どもにさせたい家庭にとっては、それが文化である。
「マシな校則」ランキング2021
逆に、「マシな校則」ランキングを見てみよう。調査を担ってくれた高校生の言葉を借りれば「少年院化していない」学校だ。
第1位は、追浜中だった。追浜中はダントツに「マシな校則」だった。ぜひ他校も見習って頂きたいものだ。
その他には、第2位の野比中が2年連続のランクインとなったほか、昨年はワースト3位だった衣笠中が「更生」し、大津中と並んで3位にランクインした。
おまけ:前回のワースト5は、その後どうなったのか
ところで、前回ワースト5に入ってしまった学校は、2021年は「更生」したのか?
学生が比較してくれたので、付記しておく。
●第1位 鴨居中学校
(2020)
・女子はスカートと限定
・女子にだけ、夏でもベスト着用
・タイツの色も肌色に指定
・他学年の廊下には出入り禁止
(2021)
◦良い点
・女子のスカート限定、ベスト着用、タイツの色指定撤廃
※服装に関しては標準服で着るようにという定めしかなく、具体例がない。タイツに関しては、着用可能かの記載も何もない。
◦気になる点
・靴下の色を全員統一
・他学年の廊下には出入り禁止
・登校後8時25分に服装点検する
・授業時間に保健室に行く場合は、教科担任から許可証を書いてもらう必要がある
・髪を結ぶ位置を指定
・眉毛の加工禁止
●第2位 長井中学校
(2020)
・制服で男女を区別し、髪型でも男女を区別
・髪型に男女の別を設ける
・女子の制服をスカートに限定
(2021)
◦良い点
・制服、髪型に男女の区別を設けず。
※標準服の例を図で載せる
・女子の制服をスカートに限定せず。
◦気になる点
・保健室を利用する場合、職員室で「保健室利用届」を記入し、先生に付き添ってもらう。
・髪の編み込みなどの装飾的な加工の禁止
・ツーブロック・段差のある髪型の禁止
・眉毛の加工禁止
●3位 衣笠中学校
(2020)
女子の制服をスカートに限定する。
女子は夏もベスト着用
(2021)
◦良い点
・制服、髪型に男女の区別を設けず、限定もなくなる。
・眉毛の加工に関する規定がない
・女子は夏もベスト着用指定撤廃
・髪に対する自由度が他校に比べてある(パーマO)
◦気になる点
・きまりにない項目についても先生の判断で罰することができる
●4位 田浦中学校
(2020)
・教室から体育館や特別教室に移動するときには整列
・女子は基本スカート
・男子の長髪禁止
・他学年の廊下出入り禁止
(2021)
◦良い点
・移動教室の際に整列させない
・髪型の性差ない、髪の切り方に制限がない
・制服の性差ない
◦気になる点
・保健室を利用する場合、職員室で「保健室利用届」を記入し、先生に付き添ってもらう。
(長井と田浦の校則が同じか)
・眉毛の加工禁止
・「流行にとらわれない」必要性
●5位 常葉中学校
(2020)
・靴を白色に指定
・男子の長髪禁止
・他学年の廊下出入り禁止
・移動時の整列
(2021)
◦良い点
・衣替えの学校で統一した時期はなく、気候に応じて、夏服、冬服の着用可能
・6月から10月中旬はジャージ登校が可
・髪の毛の切り方や結び方が自由
・眉毛の加工の自由
・靴色の指定撤廃
◦気になる点
・保健室に行くには先生の許可を得て、連絡用紙を持ってから。
・他校の学区には特に用事がない時には行かないこと。
・ゲームセンターやカラオケボックス、マンガ喫茶、インターネットカフェなどへの生徒だけでの立ち入り禁止
・他学年の教室、廊下には出入り禁止
・移動教室の時は、クラス全員が廊下に整列移動
・シャツもしくはブラウスを必ず着用するときは、アンダーシャツを着用
(無地またはワンポイントの白シャツ、体操着も可)。
・制汗剤の制限