
取り組みの結果、平均正答率が上昇?
横須賀市の公式発表では「学力向上の取り組みにより、複数の教科で中学生の平均正答率が上昇」していると言う(→横須賀市実施計画「横須賀再興プラン2022-2025」案)。該当部分も貼り付けておく。

何かが引っかかったため、私は市の言い分が本当かどうか検証した。結論から言えば「全体としては下がっている」と言ったほうが正確だった。
こちらのグラフをご覧頂きたい。各年度の学力・学習状況調査を実施した全学年・全教科の平均だ。

これを見る限り、2017年度以降と比べれば2021年度の平均正答率は下がっている。
「小林が意図的に数字を操作したのではないか?」という疑念もあるかもしれない。私は全てをオープンにする主義だ。疑念に応えるため、元になった横須賀市教育委員会による2016~2021年度の学力・学習状況調査結果の発表資料と、それを全て入力してデータベース化した資料を共有しておく。
なお、元資料の探し方を教えて下さった教育指導課に感謝するとともに、全件の入力&チェックを担ってくださったNPOドットジェイピーの大学生インターンのお2人を労いたい。
このグラフを見ると、2020年度にはグンと上昇しているように見えるが、コロナ禍の影響があることに注意したい。2020年度は国による全国調査が行われなかったため、自主的に調査を行った市区町村同士のみの比較となる。ほかにも、例年と異なる時期に調査が行われた等の違いがある。そのため、やや「外れ値」の側面があり、経年比較としては使えないと考えている。
「おいしいとこ取り」は誰のため?
そして、これを見れば、むしろ「意図的に数字を操作」したのは横須賀市ではないか?
“cherry-picking”という言葉がある。美味しいサクランボだけをつまみ食いするような行為を指す言葉で、日本語で言えば「おいしいとこ取り」だ。
「複数の教科で」「平均正答率が上昇」したという言葉自体には嘘はない。膨大なデータの中には、上がっている数字も、下がっている数字もある。そして、上がっている部分だけを「つまみ食い」すれば、それはそうなるだろう。
しかし、われわれ議員の仕事は根拠に基づいて政策判断すること(EBPM)なので、データに基づいて分析した。結果が、下記グラフだ。

これは、教科別・学年別の平均の推移だ。中学校3学年+小学校6学年×教科数の大量のグラフが並んでいるので、画像を拡大頂くか、「Tableau Public」で公開したグラフをご覧頂ければ幸いだ。
どうだろうか。おおむね意味のある変化は出ていないと言えるのではないか。むしろ、小学校低学年においては低下しているようにも読める。
根拠に基づいた政策と、子ども本位の教育を
私の推測では、このようにデータを「盛った」のは教育委員会側ではなく、「市政改革で結果が出ている!」と印象付けたかった「横須賀再興プラン」担当職員の仕業だと見ている。しかし、教育は、その時の為政者の手柄のために点数を上げるような短期的な思惑に左右されるべきではない。教育政策がうまくいっているかどうかは、きちんとしたエビデンスに基づいて評価し、政策立案に活かすべきだ。
そして、いちばん大事なのは、目の前の子どもが、この社会で幸せに生きるための力を身に着ける手助けをすること。そして、教育は「森を見て木を見ず」ではダメだ。市全体とか、学校全体とか、クラス全体とかの成績は実はどうでもよくて、目の前のその子の学習が進んだかどうかの指標がテストのはずだ。その積み上げが、全体の平均正答率になる。学校現場が子ども本位の教育に専念できるよう、雑音と雑務を取り除くことが私たち政治家の仕事だと考えている。